9月4日　(月)


　8時頃起床。身支度する。電気機器の電源を抜く。朝飯は食わなかった。

　8時30分頃出立。その際、家族が「本気で行く気だったのか」と慌てていたが、それを黙殺して、出勤時の如く外に出る。バックパックが肩にきしむが、それもまた旅らしい気がする。朝日が眩しい。



　レンタル屋にCD返却時に、時計がカウンターで売られている事に気付く。念の為安物を購入していたが、そういえば防水ではなかった。少し考えて、防水時計を買う事にした。

　JRの駅へ向かう。暑い。



　駅に着き、パスネットで通ろうとするが、使えない事に気付く。軽く苛立ち、切符を購入。ホームに出るが、なかなか電車が来ない。京成にすれば良かった。クソJRめ。

　待っている間、海外旅行初心者の本を読む。膨らんだバックパックに皆がちらちら見ている。場違いな感じがした。



　電車に乗る。車内にはデカイ荷物を持った人間がたくさんいた。この空間では少なくとも場違いではない。が、私は個人旅行。話す相手も聞く相手も自分で探さねば。ちょっと不安になる。例の本を読んだが、余計不安になる。



　成田空港の駅へ。構内で両替所がある。あちらで両替は面倒なので、レートを気にせずに、５万10円をマレーシア･リンギットに全額換える。1391RMになる(合っているかは不明)。どれぐらいの価値なのか、よく分からぬ。



　空港へ。搭乗手続きをせねばならんので、マレーシア航空のカウンターを探さねば。何処か分からなかったので、カウンターで聞く。指定された場所に向かうが、何処から入ってよいのか分からない。おかげで、数分ウロウロする羽目になる。先が思いやられるが、予想の範囲なので、まぁこんなものだろう。初めてだし、恥ずかしがる必要などない…と自分で言い聞かせながら、ウロつく。

　ようやく見つけ、行列の最後尾に並ぶ。荷物のチェック。続いて搭乗手続き。その際、私の航空券(成田→クアラルン･プール→コタ・バル)を見た係員が、私に尋ねる。

　「乗り継ぎですね？」

　「えぇ。只、着時間の都合上、クアラルン･プールの空港で一泊せねばならんのですよ。」

　「？時間(←聞き取れず)までなら空港で荷物をお預かり出来ますが、宜しければコタ・バル受け取りに致しましょうか？」

　「えぇ、お願いします。」

　こんな感じの会話を交わしたと思う。



　その後、ガイドブックと初心者用海外旅行本、文庫本を入れる袋が欲しかったので、店に行き、トートバッグを買う。店員の態度、最悪。日本の為に即刻クビにすべきだ。



　せっかくなので、海外旅行保険に入る。記入するだけ。楽なものだ。



　手荷物検査でブザーを鳴らす。ポケットに計算機を入れていたのを忘れていた。鳴らすのはマナー違反だと息巻いていた友人の顔が思い浮かぶ。舌打ちする。



　出国審査。問題などあろうはずもない。隣で外人が場違いな声を張り上げて何か喚いている。その向こうでは、女性が係員に詰問されてたじろいでいる。そんな事もあるのだろう。

　出た先の券売機で、テレホンカードを購入。国際電話なぞを後でかけてやろう。



　時間があったので、インターネットをやりに行く。途中、マッサージ屋があったが、我慢する。



　ゲートへ。既に人が集まっている。当然日本人だらけ。ポツポツ外人がいる。外人の隣だけ席が空いていたので、遠慮なく座って“不毛地帯”を読む。そろそろ時間だ。



　係員から知らせが入る。飛行機の準備が出来ていないとの事。そういう事もあるのだろう。暫く本を読んでいたが、それを置き、デジカメの調子を確かめる。すると、20枚分程しかメモリーがない事に気付く。おかしい。設定を変えてみたが、状況は変わらぬ。メモリーチップは入っているのに。

　幸いにも隣に売店があったので、そこで1GBのチップを購入。7000円もしたが、仕方が無い。それより、気付いて良かった。



　再び知らせが入る。まだ遅れるそうだ。係員が搭乗者呼び出しのアナウンスで中国人の名前が上手く発音できずに苦慮している様を聞き、苦笑する。

　せっかくなので、搭乗手続きの際、荷物の半券を貰わなかった事が気になっていたので、その場にいた係員に確認してみる。大丈夫そうだ。



　まだ遅れるそうな。気の短い乗客が「責任者を出せ！」と騒ぎ出す。ハゲの親父が出てきて、「機内のコンピューターが“離陸するな”のサインを出しているから、一度電源消して、またセットアップし直している」と、アナウンスする。普通に考えて、それって怖くないか？

　その後、近くの売店でドリンク・サービスをする、との事で、乗客はワラワラと売店に群がる。私も追随して水を買いに行く。ついでに“白い恋人”を買う。
席に戻ると、既に埋まっていたので、移動通路の外ヘリに腰掛け、読書を続ける。隣の朝鮮人らしき親父の下品な舌打ち、舌舐めの音に苛立つ。



　結局1時間30分遅れ、14時をかなり回った時刻にやっと搭乗。遅れたのにいやにニヤつきながら出迎えるスチュワーデスに薄気味悪さを感じる。



　機上。この辺りから急激に気分が悪くなっていた。乗り物に弱い性質は、どうにかならんものか。隣りになったインド人らしき男がかなり親しげに話しかけてくる。

　「マレーシアは初めてか？」

　「えぇ(キモチワルイ…)。」

　「クアラルン･プールでは何が有名なのか知っているか？」

　「いや(吐き気がする…)。」

　「ツイン･タワーが有名なんだ。」

　「そうなんですか(パンフレットに書いてあるね)。」

　今回の旅では、クアラルン･プールには空港しか行かないのさ。とにかく気分が悪いから寝かせろよ。機内は寒いし。まぁ長袖のカットソー着ていて幾分かはマシだったが。

　おしゃべりなこの方は、ようやく私の体調を察してくれたようで、ようやく横を向いた。



　入国カードが配られる。書き方が分からぬ。隣人が見兼ねて書き方を教えてくれる。ありがとう、親切な人。申し訳ない、体調悪くて。

　書いていたら、前の乗客がシートを倒してきて、頭を打つ。隣人に笑われる。憤る気力もなかった。

　結局、書くのを止めた。書いているとさらに気持ち悪くなったからだ。再び寝る。乗り物酔いは最悪だ。二度も確認したのに、やっぱり不安。半券が無いからだ。マレーシア航空は上品だし、サービスも良い。日本人のスチュワーデスも乗っているので、後でまた聞いてみるか。

　夕食が出る。魚料理を少量食べる。



　眠れぬ。気持ち悪い。寒い。映画なぞを見てみるが、つまらない上に気持ち悪い。隣人は映画見て笑っている。

　我慢出来ぬので、トイレに立つ。吐く。情けないが、長時間のエコノミーなど、苦行以外何物でもない。根本的にバックパッカーに向いていないらしい。



　再び入国カードにチャレンジ。そういえば、シートポケットに書き方が書いてあるとスチュワーデスが言っていたな。おぉ載っているぞ。しかも日本語でも。マレーシアは日本に近い国だね。機内放送も日本語入るし。



　20時くらいにコタ･キナバルに到着。コタ･キナバル経由だったのに初めて気付く。日本人がゾロゾロ降りていく。私は関係ないので、そのまま寝る。眠れぬ。

　再び離陸。早く着かないものか。



　23時過ぎ、ようやくクアラルン･プールに到着する。先に立つ隣人が手を差し出してくる。にっこりしながら握り返す。彼の親切は、この旅で外国人に受けた初めてのそれだった。人と繋がるのもいいもんだね。



　降りる直前に日本人スチュワーデスに、荷物の事と今夜眠る場所について教えて貰う。確認は大事だ。そして、話をすれば、いろんな情報が聞ける。RPGと同じさ。



　空港へ。なかなか変わった内装だ。成田の野暮ったさとはまた違う雰囲気だ。日本語の案内も出ている。ありがたい。入国カウンターまで行くが、私は国内線乗り継ぎなので、引き返す。何処から出るのかな…。

　少しウロウロしたが、頭が痛いので、休む事にする。教えて貰ったトランジットホテルに向かう。



　初めて体験する受付カードの記入。一々教えて貰いながら書く。120RMを払い、モーニングコールを飛行機離陸2時間前の5時に設定し、部屋に向かう。寒い。上着をバック・パックに入れたままだった。大失敗だ。

　カードキーにてこずる。どうやって閉まるのかね？しばらく格闘して、ようやくドアが閉まる。



　バスタブがあるので、湯を溜めて浸かる。シャワーを浴びるが、石鹸がない。歯ブラシもバックパックに入れたままだ。

　憮然として、部屋に戻り、寝る。少しホーム・シック気味だ。異国の地の寒々とした部屋で体調を崩しているからか、心細い。一日が早く過ぎてくれる事を、ひたすら願っていた。