5時にモーニングコールで起床。全然寝ていない気がする。着の身着のままなので、そのまますぐに出立する。



　チェックアウト後、すぐに乗り継ぎカウンターへ向かう。途中、ベンチで寝ている人間達をたくさん見かける。バックパッカーのくせに、私は優雅なものだ。



　入国審査を受ける。早朝故か、審査官やる気無し。新聞を堂々と広げて読んでやがる。

　私に気付くと、チラッとパスポートを見て、すぐ投げ出し、顎で「行け」と示し、すぐまた新聞を読み始めた。私の事を、一秒たりとも見ていない。入国時の質問さえ無し。なるほど、密入国などすぐ出来そうだ。



　ゲートまで行く。寒い。震える程だ。空港は何故こうも冷やす必要があるのか。しかも、早く来過ぎた。離陸まで、あと2時間近くもある。

　仕方が無いので、持ってきた“不毛地帯”を読む。かなり読み進めてしまった。



　7時ようやく搭乗開始。寒かったので、さっさと乗り込み、席に座る。太陽の光が差し込む窓際の席が有難かった。



　暫く後、離陸。また少し気分が悪くなりかける。



　しかし、とにかく寒い。仕方が無いので、タオルケットを頼む。ドリンクサービスではオレンジジュースを頼んだが、熱い日本茶かココアが飲みたかった。



　窓の外を見ると、既に飛行機は雲上である。雲が朝日に淡く染まり、なかなか美しい。私はこの旅で初めてカメラを使った。

　9時過ぎにコタ・バル着。さっさと寒い飛行機から降りる。



　荷物を受け取る為、ベルトコンベアの周りで不安になりながら待つ。意外とすぐ出てきた。当たり前といえば当たり前だが、やはり不安なので、帰る時は全て手荷物で機内持ち込みにしてやろう。



　空港入口を出て、タクシーを捕まえる。あらかじめ決めていたホテルを地図で指差しながら、ここに連れて行けと喋る。何とか英語は通じるらしい。日本語はダメみたいだ。やれやれ、ルック・イーストじゃねぇのかよ。

　すると、運ちゃんは、こっちに来いと、空港の中に入っていった。訝しむ私を彼は空港内のカウンターに連れて行った。どうやら、カウンターであらかじめ目的地までの金を払わせてから行くらしい。

　問題なく20RM払って、タクシーに乗る。



　タクシーから見える風景は、適度に汚れている。実際に歩いていない私としては、違和感たっぷり。バラックのような建物が当たり前のように点在している。まぁ、日本の現住所周辺にも似たような場所はあるが。最も、雰囲気は段違いに暗いがね。

　20分くらい走った後、“ダイナーズ・イン”とかいう中級ホテルに到着する。



　受付嬢は、イスラムの国らしく、ターバンを巻いている。一晩泊まらせろと喋ってみる。例によってパスポート見せたりサインしたりして、受付は完了したが、部屋の用意するから、10分くらいここで待っていてと言われる。

　言う通りに待つが、暇なので、指定された部屋に早めに行ってやった。



　中では可愛いネーちゃんがしこしこ掃除をしていた。まずはにこやかに挨拶。荷物をベッドに投げ出し、テレビを見つつ、彼女の仕事振りを見る。部屋は、日本のシティホテルを安っぽくけばけばしくした感じ。悪くはない。

　掃除が終わったようだ。部屋の鍵はどうした？と聞かれる。そういえば貰ってないぞ。早めに来たからな。その旨伝えると、苦笑しながらフロントに連絡を取り、鍵を持って来てくれた。スマンね。



　部屋に誰もいなくなった。やっと落ち着いた。時計を見たら、腕時計が狂ってやがる。部屋の時計も9時30分と10時30分のがある。まぁ、後でフロントに聞いてみるか。



　考えてみれば、よくこんなトコに一人で来れたもんだ。いやいや、それほど難しい事じゃない。要するに、どれだけ、自分が無知だったかって事か。

　寝っ転びながら、ダニ対策の為に持って来たシーツがあるのを思い出し、それをひき、その上に改めて寝る。ウトウトしてきた。流石に疲れた。しばし寝る事にする。



　(多分)12時前に起きる。手荷物をまとめ直して、いざ出発。早速フロントに現在時間を聞き忘れる。



　地図を見ながら、何処に行くか考える。街の中心らしい、時計台に向かう事にする。時間も知れるし、丁度良かろう。



　ホテルの裏手にすぐ時計台はあった。最初の目的地はすぐ見つかった。で、時間は…。

　…針がねーぞ。街の名所なのにどうなってんだ？違う面を見てみたら、あった。4面の内、2面しか針が入ってない。やる気が感じられない。



　そういえば、腹が減った。今日は何も食べてない。まぁ何かあるだろ。



　道端でキョロキョロしていると、女性に話しかけられた。

　「何かお探しですか？」

　「えぇ、美味い料理屋はないですか？」

　「この道を真っ直ぐ行って、？番目の路地を曲がって、？？？？？？？？…に？？？がありますよ。」

　「…どうも。」

　ほとんど聞き取れん。私のリスニングなんざこんなもんか。でも、親切だね、マレーシア人は。せっかくなので、取り敢えず言われた通りに行ってみる。

　歩いていて思ったのだが、この街には横断歩道は無いのか。



　いろんな料理屋らしきものはあるが、みんな青空バイキングみたいな店で、品目も似たり寄ったりだ。もうちっと探してみるか。



　日差しがきつい。サングラスが欲しい。



　トコトコ歩いていると、友人が泊まったらしきホテルがあった。何だ、私が泊まっているトコと近いじゃねぇか。



　川沿いに沿って歩くと、デカいホテルがあった。おぉ、ケンタッキーもあるぞ。でも、いきなりケンタッキーは芸がない。ケンタッキーの道路挟んだ向かい側に屋台っぽいカフェがある。面倒なので、そこで食べる事にする。



　ジロリと一瞥。まぁ、何処でもいいんだが。奥の店に行き、女性の店員に話し掛ける。

　「メニューをよこせ。」

　「メニュー？？？ない。」

　メニューがねーだと？ナメてんのかテメー。

　「セルフなのか？」

　「？？？」

　英語をあまり解さないのか、私の英語が悪いのか。とにかく困惑の表情を浮かべ、彼女はタジタジになっていた。しかし、こちらは空腹故に気が立っている。理解して貰わんと困るのだな。



　すると、近くで談笑していたオヤジ連中の一人がこちらに歩み寄り、話し掛けてきた。

　「どうしたんだ？」

　「俺は飯を食いたいんだ。メニューはないのか？」

　店員と勘違いして話してみる。

　「メニューは無いんだよ。自分で食べたい物を言うんだ。」

　と、食べ物が盛ってある、4つの器を指し示す。ほう、そうなのか。

　「ありがとう。」

　何を食おうか…と言っても4種類しか無いから、全部盛れと頼んだ。すかさず、オヤジが店員に通訳する。



　こうして飯は確保したが、喉が渇いていたので、炭酸が飲みたいな。で、再び店員に歩み寄る。

　「ペプシを一つくれ。」

　ペプシの看板が付いているから、コカ・コーラと言わずにそう言ったのだ。大体、この街でコカ・コーラの看板なぞ見たためしがない。ペプシと、何故かミロの看板だらけだ。

　「ない。」

　あんだとこのヤロー。カフェのくせにペプシの看板出してるくせに、ねーだとテメー。

　心配したのか、再びオヤジが歩み寄り、アイスティーかアイスコーヒーを選べと教えてくれた。どっちも嫌いなんだよバカヤロー。

　「アイスティー一つくれ。でっかいサイズで。」

　仕方が無いので、ティーを注文。再び席に戻る。さぁ食うか。

　すると、さっきのオヤジが話しかけてくる。どっから来たのか？学生か？休暇なのか？何処に行くんだ？などなど。親切なおじさん、早く飯食わせてくれ。

　頼んでもいないのに、自己紹介をしてくれた。彼はムスタファと名乗った。なかなか教養がある感じのマレー系マレーシア人だ。



　…ようやく向こうに行ったので、手を合わしてから、マレーシアでの初飯を食べる。なかなか美味しい。この焼きそばとかは、どうやらマレーシアの標準的な料理みたい。アイスティーもそうらしい。どうでもいーけど、砂糖入れ過ぎじゃねーのか？甘ったる過ぎて、まるでミロだ。



　ごちそうさま。腹いっぱい食べた気がする。勘定を払いに行く。

　全部合わせて、3.5RM。安過ぎる。1300RM以上持っている自分なら、この国で一ヶ月は余裕で遊べるぞ。



　満腹になって気が大きくなったので、親切を受けたムスタファさんに記念撮影のお願いをする。快諾してくれた。しかも、彼と談笑していた華僑系のオヤジと、全然関係ないが、違う所で飯を一人で食っていたマレー系のにーちゃんにも、写真に入るように話してくれた。

　店員にシャッターを押してもらって、ハイ、チーズ♪

　…どうやったらデジカメでこんなにブレるのかね。まぁいいか。最後にムスタファさんと話す。

　「本当にありがとう。あなたの親切には助けられた。」

　「ハハハ。いい旅になる事を祈っているよ。」

　「ところで、一つ聞いても良いか？」

　「あぁ。何かね？」

　「川(クランタン川)を撮りたいのだが、上手く撮れるスポットはないか？」

　それなら…と、地図で指し示してくれた。

　「さようなら！」

　「元気でな！」

　この瞬間から、私はマレーシアに旅行に来て本当に良かったと思った。本当に気持ちの良い人達だ。確かに、旅先での刹那的な出会いは、クセになりそうだな。



　気分がかなり良くなる。ズンズン歩いて写真を撮る。

　さらに北上し、ムスタファさんに指定されたスポットに行って、写真を撮ってみる。

　…上手く撮れない。私は写真が下手だね(苦笑)。それにしても、汚い川だ。



　さらに北上。博物館があった。“戦争博物館”…か。そういや、コタ・バルは、先の大戦の最中、マレーシアで初めて日本軍が上陸した街だったな。

　建物自体が曲がってるのか？んなバカな事はあるまいが…何度撮っても曲がっている。

　2RM(だったかな？)払って中に入る。第二次世界大戦、まぁ、この国では大東亜戦争といった方がしっくりくるが…前の大戦での日本軍や連合国軍との云々、マレーシア独立云々の展示物が並べられている。

　特に印象に残らなかったので、外に出る。



　さらに歩く。戦争博物館の柵からハイビスカスらしき花が顔を出している。

　下がちょっと切れてしまった。縦にすれば良かったな…まぁいいや。



　再び歩く。ムルデカ広場もある。その性格から、ヨーロッパのペスト記念塔のように、各地に点在しているのだろう。

　…写真が歪んでいる。傾斜の問題か。



　インターネットカフェを探す。日本で私の安否を気遣っている人達(＝トラブルを期待している人達)に、無事だよ(＝ざまーみろ)と、知らせてやりたいからだ。



　なかなか見つからない。しかも、水も切れてきたので、ミネラルウォーターを買うついでに、店員に場所を教えてもらう。気さくで親切な人達だった。



　カフェに到着。近くに日本人バックパッカーの集まる安宿っぽいトコもあったが、廃人の溜り場だという噂もあるので、近寄らず、そのままインターネットカフェに行く。



　しばらく、カフェ内で過ごす。流行歌っぽい歌がBGMで流れていたが、日本の80年代の曲に聞こえてならない。



　再び街に戻る。いい加減眩しいので、サングラスを買う事にする。

　眼鏡屋はクサる程あるが、気に入った物は少ない。お、この露天はなかなか良い物が置いている。

　3回くらい見に行って、ようやくレイバンのパンダ目のサングラスを購入。18RM。バッタもんか。この二倍の値段で同じサングラスが眼鏡屋には置いてあったが。



　再び街を見学。セブンイレブンがある。

　コンビニエンスストアが街にあるってのは、本当に便利だ。チェコやハンガリーには皆無だったから、水一つ買うのも苦労したものだ。



　日がちょっと落ちてきた。結構歩いたし、腹もまた減ってきた。邪道だが、大好きなケンタッキーを食べに行く事にした。

　ケンタッキーの入り口前に、不良少年共が屯っている。意味は全くないが、“絡まれてみたいな”という気分だったので、取り敢えず中央突破を試みる。彼等は健気にも散って行ってしまった。面白くない。



　中に入り、バリューセットみたいな物を注文する。鶏肉バーガーとチーズのソースっぽいドロドロしたやつをぶっかけたポテトと特大コーラがそれ。微妙に日本とは違うんだな。

　席に着き、食べてみる。うめぇー！



　チキン3ピースを持ち帰り、ホテルへ戻る。途中、またセブンイレブンがあったので、寄り道する。イスラムの影響が強いこの街で売られている通俗雑誌に興味があったので、奥菜恵や松浦亜弥が巻頭に載っているビニ本を買ってみる。日本では奥菜なぞは巻頭に載る事なんざもう有り得ないのに、何でマレーシアの週刊誌に？自殺でもしたのかな？それとも、この国がワンテンポ遅れているのか？

　19時30分頃、ホテルへ戻る。

　シャワーを浴びる。やっとマトモに体が洗えた。



　しばらくテレビを見る。中華・香港系の、やたらにクルクル回りながらチャンバラするドラマらしきものがやっている。当然マレー語なので、分からない。すぐ飽きたので、肉を食べながら、読書をする事にした。

　…肉の味が無い。不味いので、捨てる。白い恋人を食べようとするが、全部粉々になってやがる。うぜぇ。



　買って来たビニ本を見てみる。当然書いてある事が分からない。しかも、エロい写真が無い。袋とじも露出はまぁまぁの女性の写真。袋とじにする意味が分からない。

　成程、イスラム圏だ。この街で出会う女性のほとんどは、このクソ暑いのにターバンを巻いて顔面しか露出していない。エロは御法度に近いのだろう。見た事はないが、テレビショッピングのCMでは、レオタードやビキニの欧米人の女性にはモザイクが付くなどという話も聞くぐらいだしな。街娼も見ない。

　ちなみに、酒も売っていない。少なくとも表層的には。タバコを吸っている奴はいたが。



　それにしても…頭痛がする。旅前からあった喘息気味の咳も止まらぬ。それに、体も何となくダルい。睡眠不足と乗り物での長期移動、慣れぬ環境でのストレス…私の脆い体には、最早苦行にも等しい。薬を飲んで、寝る事にする。