トマソン

トマソン

　最初の食事を迎えた時、ある選手が通訳に聞いた。
　「デンマークでは食事する時、神への祈りをするのだが、日本では食事を始める時に何かするのですか？」

　デンマークは国民の９割がプロテスタントである(福音ルーテル教)。だから、神への祈りを終えてから食事を始める。だからこの選手は、日本ではこの代わりに何かするのか？と聞きたかったのである。

　答える通訳。
　「日本でもキリスト教の信者は神に祈ってから食べるけど、大抵は手を合わせて『いただきます』と言ってから食べます。」

　すると彼は、
　「こうやるの？」

　「そうそう！その両手をもう少し上に上げて…。」

　彼はその姿のまま、コック長の方へ向き頭を下げた。それを見ていた他の選手たちも彼にならい、手を顔の前で合わせた。この時からデンマークの選手達は、食事の度に手を合わせるようになった。

　コック長は言った。
　「今の日本人でも『いただきます』を言えない奴が多いのに、外国の人にされたら…無茶苦茶嬉しかったですよ。」

　この最初に手を合わせた選手の名前は、ヨン・ダール＝トマソンといった。1976年8月29日生まれで、182cm・74kgの体格。ポジションはFW、もしくは攻撃的MF。代表での背番号は９番であり、現代表のエース・ストライカーの座にある。今大会、デンマークを決勝トーナメントに進出させた立役者である。
　今大会前まで、オランダのフェイエノールト・ロッテルダムに所属し、日本代表の小野伸二選手とチームメイトであった為、日本でもある程度は名前を知られていた選手である。

　彼は少し神経質な面を持ちあわせており、実際酷評する向きもあるが、非常に心優しい青年だ。